故郷である岩手県の、岩泉町にある龍泉洞。この美しい水と通年10℃前後の安定した気温に恵まれた鍾乳洞は、古来より「龍が居た空間」という伝説がありました。その龍泉洞の「天に上り光り輝いた」とされる龍を表したのが、《Shining Brightly(龍泉)》です。これを表した背景には、「創作活動を10年超え培った技術や考え」を次のステップでどう生かすか…という思いがありました。身近に存在する、龍の伝説。しかし、簡単には出来ませんでした。テーマとしてあまりにも王道な龍を表すとなると、おいそれとはできない何かが、自分の中にはあったからです。現在の表現に至る前に古今東西の龍を3週間で100枚描き、中国の龍の由来等も調べ、他の動物の骨格や筋肉等も研究し、やっと造り上げました。その思いや鍛練の成果を、「アクリルの可能性の追求」というテーマの元編み出した表現方法とリンクさせることで、独自の龍神を表すことができたと感じています。近年では、「龍泉洞の龍」からさらに発展し、人々の想いを受け止め様々な龍神として具現化させています。「地球を浄化する虹色の龍」である《Shining Brightly(虹龍)》や、「人々を守る火の龍神」というイメージの《黒龍 軻遇突智》等は、正にその例と言えるでしょう。
幼少の頃から、鯨には憧れがありました。優しく雄大なイメージだけでなく、ときには雌を取り合い荒ぶる猛々しさもあり。色々な意味でスケールの大きさを感じるのが、自分には魅力的だったのでしょう。また、岩手にも捕鯨文化があったことも、関連はあると思います。柘榴も、小さい頃から好きだった植物です。割れて中の赤い粒が見える様は、とても鮮烈で、どこか耽美に思えたのです。年月を重ねるに従い、鯨や柘榴、その他モチーフの意味等も知るようになりました。鯨の大作シリーズには、そう言った情報から得たインスピレーションも取り入れ、独自性を強めようとした痕跡が見られるように思います。そして、《Endless Sky》で一旦はまとめとし、次のレベルを目指し龍へと繋がるのです。
アクリルの可能性を追求しているときに、急遽思い立ったシリーズ。最初は、ラッカースプレーで全部同じ色に塗り、シンプルに黒や白の線を垂らすだけでした。そこから、アクリル系の吹き付けに変更し、微妙な色の変化を付けるようになったり、型抜きを使ったり…用具や表現の変化と共に、「アクリルでやる意味」を強めて行ったように思います。このシリーズは、最も抽象的で、見た方それぞれの意味を自由に持たせやすい絵だと思っています。絵と向き合い、感じるままに、思考を委ねる楽しみがあるのではないでしょうか。
抽象画を描くにあたり、何かを基に抽出や再構築をするのですが、魚から魚、花から花…等の流れだと、どうしても元のイメージに引っ張られてしまうため、「全く別の物から作るのはどうか」と思い立ったのが、言葉でした。例えば、《dreamin'》の場合は「DREAM」という単語から作るわけですが、そういう縛りがあった方が、かえって自由でリズミカルな形を作りやすいように思えたのです。つまり、この絵は「文字を伝える」ことが目的では無く、あくまで絵画としてのリズムや新鮮さを追求した結果なのです。
元々沿岸部育ちということもあり、海には関心がありました。創作活動を始めた頃から、鯨をメインテーマにしていたのですが、Wishシリーズは、そのときそのときの、メインワークに向けての実験や表現を確定するための大切な試作品であり、表現や思考の変化も終える非常に重要な検証結果の1つと言えます。実験と言いつつも、その実は、小作品というサイズの違いだけで、込められた精神性は大作にも負けていません。むしろ小さいサイズならではの構成や質感を目指しており、Wishシリーズとして独立した魅力や楽しみ方が成り立っています。ところで、「Wish」とは希望のことですが、総じてイルカや鯨が(海では無い)異世界を泳いでいます。これが登場する生物の希望なのか、それとも人類の勝手な希望なのかは、見る者の感じ方次第なのでしょう。
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